一方LocalTalk(PhoneNet)の方は、さきほどの1階から2階まで引いたEthernetケーブルに強引にLocalTalkの信号も通してしまうという裏技(10BASE-Tは8芯のうち4本しか使っていないので、2本にLocalTalkを流した)を使い、その他の階はもともと引いてあった線を利用して、主に高学年の教室を中心に各教室までの線を延長した。
EthernetやLocalTalk(PhoneNet)のケーブル設置は、有志の先生がたとボランティアスタッフがまる2日かけて行うこととなった。例によって例のごとく配線工事のプロは一人としていないので、事前の下見に3回、配線図をこねくり回すこと数回でなんとかプランをまとめ、試行錯誤と見よう見まねでなんとか引いた、という感じだ。一部垂直部分では通信用パイプスペースを利用して配線してあるが、大部分はむき出しの線をフックで壁に止めているような形になっている。本当は廊下の上を通っている配線用のラックレールを使ってスマートに引きたかったのだが、さすがに手に負えないのであきらめてしまった。
図 パイプスペースの配線 専用のワイヤを使ってパイプの中を配線する |
図 職員室での配線作業 右側に見えているのがコミュニケーションサーバ |
さて、配線と同じぐらい重要なのは、職員室に置かれているサーバや全校舎に散らばっているMacintoshをインターネット接続することだ。中川西の場合は、これまで使ってきたISDN1回線をそのまま流用し、新たにISDNルータと呼ばれる装置を接続した。ここで取った方法は、簡単に言うと、構内LANにつながれたコンピュータからインターネットを利用している時のみ電話代がかかる、というもので、利用時間が長時間にならない場合は通信コストを安く上げることができる。
このため中川西では、ふつう施設がインターネット接続する場合に設置するサーバ類を大幅に簡略化し、東京NOC等に相当依存する形とした。学校には専属のエンジニアが常駐しているわけではないので、サーバ類のメンテナンスが難しい、という理由もあるが、むしろ、インターネットのアドレスを管理するDNS(ドメイン・ネーム・サーバ)、メールの送受信や郵便箱機能をもつメールサーバ、ホームページを発信するウェブサーバなど、昼夜問わず他方から頻繁にアクセスされるサーバをすべて外部に置くことで、外部から中川西に余計な信号が流れないように配慮した、つまり電話代がかからないように工夫した、というわけだ。
ルータ以外では、FirstClassサーバにTCP/IPオプションを追加してインターネット対応とし、その他、構内LANに接続している各マシンにインターネットIPアドレス(*後述)を動的に割り当てる仕掛けや、EthernetとLocaltalkの2種類のネットワークを互いにつなぐ仕掛けをMacintosh1台とApple IP Gateway,Apple LocalTalk Bridgeというソフトウェアを利用して実現している。
これにより、コミュニケーションサーバの東京NOCとのゲートウェイはTCP/IPベースでおこなわれるようになり、また、インターネット上からならば、どこからでも中川西の学校電子会議室へアクセスすることが可能になった。また、Ethernet、LocalTalkどちらでも構内LANにつながっているマシンからならば、インターネットアプリケーションをフルに利用することができる。
現状では、ISDNルータ、TA、2台のモデムの計4台が2チャンネルを取り合う形になっているので、例えばモデム2台が使用中だったとすると、ISDNルータが相手先に接続できなくなってしまう、といった問題が依然として残っている。そういった意味では学校外からのアクセスに対して十分な設備を用意しているとは言えないかもしれない。ISDNを2回線にしてモデム用とインターネット用に振り分ければ、たとえモデムが全て使用中でもインターネットを経由して数多くの人がアクセスできるようになる。つまり、学校に直接つながらなかったら、まず近所のインターネットプロバイダを経由して入って下さい、というわけだ。
インターネット接続を行うとき、現状でもっとも大きな障壁となるのは、外線とつなぐ通信手段のコストである。第3期までのように1日数回しか情報のやりとりをしない間欠型のやり方もあるが、これではWWWなど一部のソフトウェアが使えない。全てのインターネットアプリケーションが利用できるようにするには、現状では専用線接続、つまり2点間を常時つなぎっぱなしにするか、中川西のように必要なときだけ回線をつなぐISDNルータを利用する方法しかない。ISDNもつなぎっぱなし状態になってしまうと、専用線接続の値段よりも高くなってしまう可能性があるので、それなりの工夫が必要だ。
中川西で用いている「NOC依存型」接続はその工夫の一つ。学校の場合、教員や子供達がインターネットを利用する時間は、昼間のごく限られた時間に過ぎないので、常時頻繁にアクセスされるサーバ類をNOCに置いてしまえば、回線の利用率を大きく下げることができる。一方でNOC側の負担が重くなる欠点があるが、これから接続を考えている学校には十分検討の価値があるだろう。
この段階で初めて登場したルータは、構内LANと外部との関所にあたる装置で、基本的にこれがないとネットワーク同士をつなぐことができない。ルータは構内LANを流れている信号の行き先を常時見ていて、外部へ行く信号のみを外線側に流す仕掛けになっている(もし、構内だけに流れればよい信号まで外側に流してしまうと、ネットワークの回線はすぐに渋滞してしまう)。東京NOCには中川西と対になるルータがあり、お互い相手側に流すべき信号のみを受け渡ししているというわけだ。
インターネットを利用するには、かならず利用中のマシンに世界で固有の番号が振られている必要がある。これがIPアドレスと呼ばれるもので、すべてのインターネットアプリケーションは、このIPアドレスで互いを認識し、情報を送りあうことができるようになっている。
マシンにIPアドレスを割り当てる方法はいくつかあるが、もっとも単純なのは、ひとつひとつのマシンに対して固有の番号を割り当ててしまうやりかただ。しかし、これだとマシンの数だけIPアドレスが必要になり、おまけに数多いマシンを番号が重複しないように管理するのは大変なことである。中川西の場合、センター側で用意したIPアドレスは事実上30個しかなかったので、全てのマシンに固定で番号を振るのは最初から無理だった。そこで、先生や子供達が使うクライエントマシンに限っては、インターネットを利用するときだけ、番号を割り当ててもらう設定としてある。
順を追って解説したように、インターネットへの接続といってもその形態は様々だ。個々のケースについては、用途と予算の条件を見比べながらベストな答えを見つけて行くしかないだろう。
中川西小学校の場合もまだ改善の余地があちこちにある。例えば、マシンの数の問題が挙げられるだろう。先に述べているように、中川西小学校には実質コンピュータ室がなく、マシンは校内や学級に分散配置されている。これは長所でもあり弱点でもある。つまり、いろいろな場所に置かれたパソコンからインフォメーションキオスクのようにネットワークへアクセスできるものの、授業で一斉にパソコン・ネットワークを利用しようとしても2人に1台は当たらない。また、子供達が本格的にネットワークを利用しはじめ、日常的に電子メールをチェックしようとしても、現状では満足な台数と時間を保障することができないのである。有望視されている500ドルネット端末がもっと安くなってくれれば、クラスに2、3台づつ配るという案もより現実的になってくるだろう。
究極のところ、子供ひとりひとりがネットワークにフルに参加するには、全員に長時間バッテリー駆動のノート型パソコンを用意し、情報コンセントや無線LANを駆使した大規模なネットワークシステムを構築しなくてはなるまい。いずれにせよ、コンセプト自体が子供寄りなので、いま現在盛んに言われているインテリジェントスクールのプランとはずいぶん違った形になるはずだ。そんなぶっとんだ話が実現するかどうかは全く知る由もないが。
さて、当面学校へのインターネットで課題になるのは、構内LANやネットワーク設備導入の費用よりも、通信費をはじめとする莫大なランニングコストだと思われる。専用線など料金が固定されている場合はまだ良いのだが、ISDNを利用する場合など月ごとに変動する料金をうまく予算化する方法を考えなくてはならない。しかしながら、ここ数年通信環境は急激に変化しているので、これからも様々なサービスが登場し、通信方法やコストに関する意識も大きく変わってくることだろう。NTTがまもなくサービスを開始するOCN(Open Computer Network)や、地域のCATVを利用したインターネットサービスなどは、これまでとは比較にならないほど安い値段でインターネット利用を可能にすることができる。長期的なネットワーク構想を立案するならば、業界の動向をもじっくりと見極める必要がありそうだ。