ひとくちに学校をインターネット接続するといっても、現状では、言うは易し、行うは難し、ではないだろうか。インターネットとの接続には様々なバリエーションがあり、かかる費用経費もいろいろである。しかも、ネットワークに詳しいエンジニアやディーラーは、どこにでもいるという状態ではない。もし、読者が学校への導入を考えているならば、学校の特色を良く理解した上で、設計図を引き、機材をシステムアップできるような優秀なエンジニアに出会えることを祈るばかりだ。
さて、ここで紹介しようと思うのは、まわりから様々な支援を受けながらも、おおよそ手作りで学校ネットワークを作ってきた私達の中川西小学校の事例である。ネットワークの実践はすでに3年目に入ったが、この間、ネットワークアクセスの構造は大きく変化し、拡張を続けてきた。私達の試みは実験的なもので、十分な予算があるわけでもないので、なるべくローコストに、業者に頼らずに自ら頭を使い、汗を流しながら試行錯誤で構造を作り上げるしか手はなかったが、そのかわり、素人ながら「具体的に何ができるのか」「どう解決するのか」については、ずいぶんと検討を重ね、ノウハウにする事ができたように思う。
ここでは最初に、学校に導入するシステムとして、何が最も重要な条件か、を考えてみる。次に、中川西小学校特有の前提条件と、第1期から第4期に至る構造の変化を解説してゆく。ここに提示したものは、あくまで例に過ぎないが、学校にどのようなシステムを導入したらよいのか、検討する材料にしてもらえたら幸いだ。
ネットワーク化の対象として、小中高等学校は相当特殊な部類に入るだろう。企業や大学研究機関と違って、ネットワーク管理者を常駐させることが不可能であったり、保守や維持のための予算をほとんど確保できなかったりする。ネットワーク化の設計図には、その設計者の思想が色濃く反映されるものだが、これがコストやマシンパフォーマンスに偏ったものになると、せっかく導入したのに活用されなかったり、維持管理に手が負えなくなって、悲鳴を上げてしまうことにもなりかねない。
ここで、学校にネットワークを導入する場合の前提条件を考えてみると、次の3つが挙げられる。
一部の私立学校を除けば、コンピュータやネットワークのために確保できる予算は非常に限られているのが普通だ。予算内でなるべく安く、しかも、手が掛からず壊れにくいシステムを提案する必要がある。当然だが、コストには導入コストとともにランニングコストも考えておかねばならない。また、学校の場合は、ネットワーク用の機材だからといって特別なマシンルームやラックに納められるとは限らない。職員室や教室の場合は、特に埃や直射日光にもさらされる可能性もある。
ネットワーク機材には、民生機からハイエンドにいたるまで様々なものがあるが、なるべく部分的な置き換えや転用の利く機材で構成するのもポイントである。通信手段の変化は激しいので、新しいものもまたたく間に古くなってしまう。導入したシステムを数年間全く変更せずに使い続けるのは、ちょっと現実的ではないので、オールインワンの高価な機種を1台入れるより、多少ごちゃごちゃしても取ったり付けたりができるシステムを組んだ方が、好都合と言える。
そもそもネットワーク管理は簡単なものではないが、かといって、管理者研修を行って教員に負担させるというやり方には無理がある。システムエンジニアを派遣するといっても、1校に割り当てられる日数は限られてしまうだろう。結局は、普通の先生が日常業務でこなせる範囲内に管理作業も納めなければならない。なるべく専門的知識を必要としないシンプルな管理ツールを用いると共に、場合によっては、学校側に置くべきネットワーク機能を一部ネットワークセンターなどに依存・分散させる必要が出てくる。
横浜市立中川西小学校のネットワーク化にあたっては、他の学校とは少し状況が異なる部分がいくつかあった。
もっとも大きなポイントは、パソコンがパソコン教室にまとめて置かれているのではなく、各階教室にバラバラに配置されているということである。普通、パソコン教室に集中配備される場合は、教室内LANも同時に工事をしてしまうので、インターネットの接続といっても、もともとある配線を利用すれば良いケースも多い。ところが、中川西小学校ではLANと呼べるものはまったくなかったため、学校中にネットワークの線を張り巡らしてゆく必要があった。
もうひとつは、半数以上を占める旧型機種も使えるようにするためにネットワークを1種類に限定できない、ということである。最近のマシンはほとんどがLANの標準ともいえるEthernetに対応しており、線を本体の端子に差し込むだけで利用可能になったりするが、古い機種は拡張ボードを取り付けたりする必要が生じるので、どうしても割高になってしまう。このため、中川西では、スピードは遅いがMacintosh全機種が対応しているLocalTalkと、限られたマシンしか使えないが高速なEthernetの2種類とを、用途に応じて敷設することになった。
さらに、もう一点は、中川西で最初ネットワークを利用するきっかけとなったのはインターネットではなく、FirstClassという電子会議室システムであったということである。これは最初から第3期まで続き、学校内のLANからインターネットが利用できるようになったのは、つい最近の第4期に入ってからになる。
最初に始まったのは、学校から東京NOC(Network Operation Center)のFirstClassの電子会議室(メディアキッズ)ホストへ普通のパソコン通信と同じようにアクセスすることであった。この頃は最小限のパソコン1台とモデム1台の構成である。まだ専用の電話回線はなく、学校のファックス回線を間借りするかたちで行われていた。中川西小学校がメディアキッズに加入した、といっても、IDが用意されていたのは中川先生だけで、他の人がアクセスしようと思ってもできない。また、アナログのモデムで東京まで市外電話をかけていたため、しばしば途中で途切れてしまったり、東京NOC側が混んでいてつながらないこともあった。
第1期の特徴 | |
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トピック | FirstClassのクライエント接続 |
外線接続 | 一般電話(FAX)回線の共用、アナログ1回線 |
プロトコル | FirstClass BBS |
LAN環境 | なし |
クライエント数 | 1+アナログモデム(28800bps) |
サーバー数 | 0 |
ネットワーク図1 |
インターネットの場合でも、予算の関係で通信用回線の確保も校内のLAN整備も難しい場合は、このようなクライエント接続をすることになる。中川西の場合はアナログの一般公衆電話回線であったが、今後はデジタルのISDN回線とTA(ターミナルアダプタ)の組み合わせが一般的になるだろう。ただし、この場合ネットワークに接続できるのはパソコン1台だけで、しかも接続中はリアルタイムで電話料金がかかる。たいがい電話回線は職員室にしかないので、先生ひとりが演示するぐらいがせいぜい。子供達に自由に触ってもらう、というわけにはなかなかいかないだろう。
第2期になると、簡易ながらも構内LANを敷設し、職員室にコミュニケーションサーバ(FirstClassサーバ)を置くことで、LANに接続されている複数のマシンから、サーバが提供する電子会議室へ一度にアクセスすることが可能となった。
外線との接続は相変わらずFAX回線の共用だが、この段階でひとつ変わったのは、FAXとモデムを着信音で自動的に切り替える装置を取り付けたことである。理由はあとで述べるが、ゲートウェイというサーバの動作を、東京のNOC側と学校側で自動で行う必要があったためだ。東京NOC側のサーバが自動的に指定時間に電話をかけ、情報の交換を要求してくるので、受け側の学校も確実にサーバに自動着信させなくてはならない。(つづく)
第2期の特徴 | |
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トピック | コミュニケーションサーバ(FirstClass)の導入 LocalTalkLANの敷設 LANからのFirstClassアクセスと外線からの接続 |
外線接続 | 一般電話(FAX)回線の共用、アナログ1回線 自動切り替え機 |
LAN環境 | LocalTalk(PhoneNet)によるデイジーチェーン接続 4芯電話用フラットケーブル 1階職員室〜2階教室部分まで |
プロトコル | AppleTalk(内線), FirstClass BBS(外線) |
クライエント数 | 10+PhoneTalkアダプタ |
サーバー数 | 1(FirstClass Server) |
ネットワーク図2 |